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2004年6月3日 読売新聞より |
【ニューヨーク=河野博子】米ニューヨーク州司法当局は二日、英大手製薬会社「グラクソ・スミスクライン」の抗うつ剤「パキシル」に関し、同社がデータ隠しを行ってきたとして、同社を相手取って、同薬販売による利益を被害者に支払うよう求める損害賠償請求訴訟を、ニューヨーク州地裁に起こした。 州司法長官の発表によると、パキシルは医師が特別に処方する形で、そううつ病やパニック障害などに悩む子供にも広く使われている。ところが、九八年から会社ぐるみで、都合の悪い情報隠しを実施。うつ病の未成年が使用した場合の効用や副作用について五件の研究が行われたが、パキシル服用者の間では、自殺を考えたり、自殺しようとした人が6・5%に達し、無害な偽薬を服用したグループ(1・1%)よりはるかに高かったなどの結果が出た。 しかし同社は、結果がはっきりしない一件だけを公表し、医師に対する医薬情報でも、こうした点に触れていなかった。 ◆日本でも広く使用 同社の日本法人「グラクソ・スミスクライン」(本社・東京)によると、「パキシル」はSSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害剤)と呼ばれる新しいタイプの抗うつ剤で、従来の抗うつ剤より便秘やのどの渇きといった副作用が少ないとされる。 日本では二〇〇〇年十一月に販売が始まり、通院患者にも使いやすい点などから使用者は年々増え、二〇〇三年の一年間で330億円の売り上げがあった。 当初から処方の対象は成人(十六歳以上)に限定されていたが、イギリスやアメリカの試験で思春期の患者に投与した場合、自殺を考えるケースがあることが判明。このため厚生労働省は二〇〇三年九月、安全性情報を出し、十八歳未満で、「大うつ病性障害」というタイプのうつ病患者については投与を禁止するよう医療関係者に呼びかけた。 |
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2004年2月27日 読売新聞より |
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2003年8月23日 毎日新聞より |
<副作用リタリン>大学生が大量服用し自殺 精神科クリニックなどで向精神薬が過剰処方されている問題で、神奈川県の男子大学生(25)が今年初めにリタリンの大量服用の末に自殺し、手記に「頼めば処方せんなしで大量に出してもらえた」と書き残していたことが分かった。リタリンは依存性が強く、自殺願望を強める副作用も指摘されており、このクリニックの院長は毎日新聞の取材に「私の判断が甘かったかもしれない」と話している。 手記によると学生は、対人恐怖を治そうと99年から伊勢原市のクリニックに通い始めた。「気力の出るリタリンがほしい」と頼むとすぐに処方され、勉強もはかどるようになった。 処方は1日6錠に増え、医師向け説明文書(添付文書)で定めた1日の最大量の2倍になった。薬が切れた時の頭痛と落ち込みは激しく、「布団に横たわることしかできない」と記している。次第に自殺願望が強まり00年10月、睡眠薬などを飲んで自殺未遂を起こした。 その後、「2週間に1回の通院を10日に1度にすればいい」と主治医の助言を受け、ひんぱんに通院し、「薬局を通さず(処方せんなしで)2、3日おきに2週間分のリタリンをもらった」こともあったという。 学生は薬物依存を絶とうと、依存症専門の病院に入院したが、誘惑に勝てず退院後、別の複数の病院を回って大量の薬を飲み続けた。うつ症状は改善せず、今年初め、自宅で睡眠薬などの大量服用によって命を落した。 リタリンは、うつを悪化させる恐れがあるため重いうつ病患者への投与が禁じられ、自殺願望を増す副作用も指摘されている。主治医だったクリニックの院長は取材に「薬が欲しいと粘られ、薬局を通さず与えたことはあったかもしれない。自殺は本人の気質によるものだと思うが、私の判断が甘かったかもしれない」と話した。 母親(55)は「自殺未遂後、主治医に投薬をやめてほしいと訴えたのに、なぜ薬を出し続けたのか」と憤っている。【山本紀子】 【リタリン】 劇的な覚せい効果をもたらす向精神薬。世界約60カ国で販売されているが、うつ病への適用を認めているのは日本だけで、他国ではナルコレプシー(過眠症)向けの薬だ。薬物依存を生じる恐れがあり、医師向け説明文書は、十分な観察と慎重投与をうたっている。 ◇病院競走激化で安易な処方も◇90年代以降、抗うつ剤の市場は急速に広がっている。厚生労働省によるとうつ病患者は91年から99年で5割増加し、精神科のクリニックも7割増えた。リタリンなどの過剰処方問題は、クリニック乱立で競争が激しくなったことと無縁ではない。 心に安定感を与える抗不安薬や、高揚感をもたらすリタリンなど「気持ちよくしてくれる」薬の人気は高い。ガイドブックが売れ、インターネットでも情報がはんらんしている。 このため、リタリンは薬価が安いものの、処方すると患者が喜び、「固定客になってくれる」(都内の精神科医)メリットがある。自殺した学生が通っていたクリニックも、3カ月先でないと予約が入らないほどにぎわっている。複数の病院をかけもち受診して薬をかき集める依存症患者もいるが、それを阻止しようとする医師は少ない。 薬による病気や障害と違い、薬物依存の症例報告は医療現場から製薬会社にほとんど上がってこない。厚生労働省や製薬会社が、依存症例を積極的に集めない限り、水面下の被害が減ることはない。【山本紀子】 |
2003年8月20日 毎日新聞より |
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